それもまた相変わらずな 3 〜ようこそお隣のお嬢さん編

     *間が空いてたのでちょっと解説。
      それもまた…というのは、書きたいシーンだけ書いてみたシリーズです。
      いつもいつも冗長なので書いてる方もじれったくなっての代物ですが、
      日頃のブツとあんまり変わってないかも…。
      ようこそ…は原作世界の平行世界線、
      男女逆転状態なところからやってきた新双黒のお話の続編で、
      探偵社とポトマの主要な人たちが男女逆転しております。


かつてはポートマフィアというヨコハマの闇の頂点に立つ組織の幹部。
だがだが今は、
陽の当たる世界の一角で 人々の幸いを脅かす存在を叩き伏せる戦いに身を置く
勇ましくも頼もしき才媛。
颯爽としていればそれなりに輝かしい存在だろうが、
そういうのは面倒だと日頃はだらだらし怠け者でございという風体でおり、
同僚の国木田女史から怒鳴られない日はないほどだとか。

 難は山ほど、でもでもその頼もしさは隠しきれずで、
 知己らから良くも悪くも多数慕われている彼女だが

 「…太宰?」
 「太宰さん?」

馴染みのカフェに入ってきた姿は見慣れたそれで、
しっかとした芯のある、威容に満ちた存在感。
イマドキの言いようでバリキャリな女傑という雰囲気の彼女が、
だのに今、その懐には 慣れてはないだろう存在を余裕で抱えておいで。
いわゆる三頭身の小ささで、丸や柔らかな線で構成された幼い存在。
白銀の髪に色白な頬、紫と琥珀というアメトリンを思わせる双眸。
淡雪みたいな色彩と頼りなさは とある少女を彷彿とさせるが、
自分たちの知るあの少女はそこまで幼くはなかったはずで。
とはいえ、みなしごだというあの子には妹や従妹はいないはず。
呼び出された側の知己である中也と芥川としては
見えているものがなかなか飲み込めず。
しばらくは声がなかったものの、
やたらご機嫌そうな太宰の様相に
幻覚でも何でもないらしいと何とかそこは把握でき。
待ち合わせた馴染みのカフェの、複数人掛けのテーブルにつかんとする彼女へ
確認するよに声をかける。

「…まさかその子って。」
「ふふー、可愛いでしょうvv」

一応はスリングもどきの抱っこ紐を使っているようだが、
嫋やかな風貌に似ず実は結構 力もある女傑。
くるんと回した片腕だけでも余裕で抱えてはおれるらしく、
安定しているのだろう、幼女も不安げな様子ではない。
会話を始めた初見のお姉様を
懐からじいと見上げてくるお顔が何とも愛くるしくて。
此奴の言へ相槌打つのは癪だが、でもでも可愛いなぁと相好を崩しかかったマフィアの女傑様。
だがふと気がついて、

「ところでなんでそんな身軽な手ぶらなんだ。」

何でなんだと順当なことを訊いた中也へ

「???」と

唐突さにか内容へか小首を傾げるあたり、
ああやはり此奴の子ではないなという裏付けとなっており。
そんな型通りのやり取りのこれが答えと言わんばかり、

「忘れ物。」

言葉少ななのはいつものことだが、今日は特にやや憤懣混じりらしい口調で
彼らには馴染みの少年の声が遅れて飛んできた。
太宰嬢がやって来た背後を見やれば、
大きめのマザートートを肩から下げた、
探偵社の最年少調査員が微妙に怒っているよな顔つきで立っており。

「何も持たずに飛び出してって。」

むすっとお怒りなのはその点へだったらしく、
さもありなんと肩を落とした中也もそれを案じたのだろう。
赤子ではないけれど、それでも幼い子の外出にはあれこれと要るものが多々あるはずで。
普段通りの手ぶら同然という風体だった太宰嬢なのへ、
おいおいおいおいと物申すしかかっていた中也姉の方が
よほどに子連れへの心得には通じておいで。
そんな会話になりかけていたのへ同意するように、
和装の鏡花少年がやや頬を膨らませて非難する。

「国木田さんと与謝野せんせえが大慌てでそろえた。」
「え?まさかこれ全部“独歩吟客”で?」

異能で出したのなら私が触ったら…と、
見当違い…ともあながち言えぬが、
それでも困った方向へと危ぶむ割に 手を伸ばす困った蓬髪の包帯お姉様なのへ、

「事務の皆さんが総出で買い揃えてくれた。」
「なぁんだ。」

何が要りようかを国木田女史と与謝野医師が書き出してメモにし、
鏡花と一緒に社を出た事務員の皆様が
此処へ至るまでにあった様々な店へ飛び込んではあれとこれとと集めてくれたようで。
驚くべきチームワークできっちり揃えられたベビーグッズ満載のマザートートを
とりあえずはテーブル脇の椅子の1つへと置く。
そのまま回れ右しかかる少年へ、
まあまあと中也が腕をやんわり捕まえて引き留め、席に着きなと促して。

「…ってことは、やっぱりこの子は敦なのか?」

ほわほわふわふわな産毛もどきの細い質の銀髪に
丸ぁるい頭をくるまれている幼い子。

「うん。」
「そうだよ、可愛らしいだろうvv」

自慢気に胸を張る太宰だが、先程と同じ言しか出ていない辺り、
彼女自身も愛らしさに当てられて語彙が喪失しているらしく。

 任務中に相手のキャリアや年齢を操作できる異能者に対処していたが、
 捕縛を知っての逃げるすべとして、攪乱目的でその異能を発動されてしまい。
 太宰には効かなんだが同行していた敦はもろにかぶってのこの始末…だったという。

「手前が居るのに何で解けてねえんだよ。」
「時限型らしくてね。」

制御できていないケースのたまにある話、
特殊な異能の特殊さの中には、解くのに面倒な癖があるという困ったものもある。
異能発動したその後の対処までは知らぬという無責任なそれだったらしく、
調査員総出で締め上げたところ、3日ほど経ったら戻るとか。

「…またそれか。」
「それです。」

ちゃんと制御しろよと
どこの誰かも知らぬ素人異能者の暴挙へがくうと肩を落とした黒帽子のマフィア嬢。
オーダーしたアイスコーヒーをとりあえず一口味わったものの、
コーヒーのほろ苦さも一瞬のこと、
じっと見やってた幼女の愛らしさには板についてるはずな渋面もほぐれる。
自分を見守る新顔のお姉さま方へ好奇心いっぱいの目を向けていたが、
手套越しにふかふかな頬をちょいと突かれても、
キョトンとした後、きゃうぅと目許をたわめて笑う無邪気さよ。
中也を覚えているというのではないようで、それでも

「可愛いなぁ、敦。」

きゃうと可愛らしい声ではしゃぐ無邪気さは、あの少女の面影をまんま残しており。
此処まで幼い子にはあまり縁のない身だが、それでも相手があの子ならお顔もほころぶというもの。
ましてや日頃も可愛い可愛いと愛でていた中也には容易い順応。
満面の笑みで微笑む女史の傍ら、
こっちはむっつりかそれとも戸惑うばかりかと思われていた黒衣の姫はといえば、

「………。」

小さくてやわやわな存在など、
弱き者は道を譲れなんていうよな禍狗姫には忌避すべき存在かと危ぶめば、

 “あ…。” × 3

驚いたように息をのんで立ち尽くしていたものが、
遅ればせながらそろそろとテーブルまで近寄ると、
恐る恐るに手を伸ばしてくる。
恐いもの相手というよな慎重さであり、
敦の側で叩かれると思うての反応をするかと危ぶんだが
ひゃっと首をすくめるでもないまま、相手をじいと見やるばかりな無防備さ。
むしろ芥川の方がびくついて宙で手を止めたが
頑張って手を延べて、いい子良いこと頭を撫でる。

「きゃう、だあvv」

嬉しいのかはしゃぐ敦だったのへ、ホッとしたそのまま撫で続ける彼女なのへ、

「ああ、あれは時々銀くんに見せてるお顔だね。」
「そうか?」

姉様二人がこそこそと言葉を交わした。
今はすっかりと頼もしくなってる弟御だが、
組織に来たばかりの折はどこか頼りなげなところもあったから。
たった二人きりの肉親とあってお姉ちゃん頑張って庇ってたよと太宰嬢が苦笑する。
確かに、日頃の緊張感あふれる硬くて冷たいお顔からは途轍もなく離れた
柔らかな含羞みの滲むお顔でいる禍狗姫様。
あああ、そんな美味しそうなお顔するなんて、

 「よし、今日のデートは敦クン同伴だね。」
 「はい?」
 「こらこら、許さんぞ。」

現金にも自分の都合だけ優先な発言をする太宰へ、
中也と鏡花が、そんな話が通るもんかと叱言のお声を放ったのは言うまでもなかったのであった。





     〜 Fine 〜    22.08.03.


 *書きたいところだけ書いてみた、赤ちゃんになっちゃった編でした。
  正確には幼女でしたけどね。
  赤ちゃんを振り回すにはこの顔ぶれでは危険かもと思い直しまして。
  子供には縁がない顔ぶれで、
  唯一孤児院で世話を押し付けられてたかもな敦ちゃんが幼女になっちゃっては、
  誰にも世話なんて出来ないだろうなぁ。
  だってのに見せたいってだけで連れ出した、
  相変わらず無謀な太宰さんだったのでありました。

  *ちょっと続きます。
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